簿記3級の勉強を始めたばかりのとき、「売掛金」と「買掛金」の区別がつかなくて悩んだことはありませんか。
どちらが「もらう」で、どちらが「払う」なのか、文字が似ていて混乱しやすい論点です。
現金がないのに仕訳をする理由も、つまずく人は少なくありません。
言葉の意味と「ビジネスの仕組み」をセットで学べば、絶対に忘れることはありません。
- 売掛金と買掛金の決定的な違い
- 現金を使わない「掛け取引」の本質
- 実務でも役立つ「勘定科目」の正しい選び方
結論:売掛金は「もらう権利」で買掛金は「払う義務」
売掛金と買掛金の違いは、「後でお金を回収できる権利か、後でお金を支払う義務か」という点にあります。
- 売掛金:商品を引き渡し、「後でお金をもらう権利」(資産)
- 買掛金:商品を受け取り、「後でお金を払う義務」(負債)
簿記の世界では、これらを「掛け取引(かけとりひき)」と呼びます。
これらは、企業間の「信頼」に基づいてビジネスを円滑に回すために、欠かせない勘定科目です。
現金がその場になくても、この2つを使えば、正しい「会社の財産状態」を記録できます。
| 売掛金 | 買掛金 |
|---|---|
| 売る | 買う |
| 資産 | 負債 |
| もらう | 払う |
| 売上時に発生 | 仕入時に発生 |
掛け取引は「信頼」でビジネスを加速させる仕組み
では、なぜわざわざ、その場で現金を支払わずに取引をするのでしょうか。
理由は、「取引のたびに現金をやり取りするのは、非常に非効率だから」です。
ビジネスをスムーズにする「後払い」
例えば、あなたが毎日、同じ卸売業者から商品を仕入れるとします。
1日に何度も荷物が届くたび、財布から現金を数えて支払うのは大変です。
お釣りの用意も必要になります。これでは、お互いに手間がかかり、ビジネスのスピードが落ちてしまいます。
そこで、「今月取引した分は、まとめて来月末に払います」という約束を交わします。
これが「掛け取引」の正体です。
この取引は、相手が確実に後で支払ってくれるという「信頼」があるからこそ成り立ちます。
簿記における「取引の2面性」
簿記には、1つの取引を2つの側面から記録するというルールがあります。
商品を引き渡した時点で、お店側には2つの事実が発生します。
- 商品を販売したという「売上の発生(収益)」
- 後で代金をもらえるという「代金を回収する権利(資産)」
代金が入ってくるのは1ヶ月後かもしれません。
しかし、ビジネスの活動としては「商品を渡した時点」で売上が成立しています。
そのため、現金の代わりに「売掛金」という文字を使って、今ある権利を正しく書き留めるのです。
買掛金もまったく同じ理屈です。
商品を受け取った時点で、以下の2つが同時に生まれます。
- 商品を仕入れたという「仕入の発生(費用)」
- 後で代金を支払うという「代金を支払う義務(負債)」
このように、売掛金と買掛金は、表と裏の関係になっています。
一方が売掛金を記録するとき、もう一方は必ず買掛金を記録しています。
具体的な数字で流れを追いかけよう
ここからは、実際の試験に出るパターンを使い、仕訳の具体的な流れを解説します。
売上側と仕入側の両方の視点を見ていきましょう。
商品を掛けで売ったとき(売上側の視点)
【例題1】
A商店はB商店に商品10,000円を掛売りとした。
【仕訳】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 10,000 | 売上 | 10,000 |
左側(借方)の「売掛金」は、資産の増加を表します。
右側(貸方)の「売上」は、収益の発生を表します。
代金はまだありませんが、「お金をもらう権利」という財産が増えたため、左側に書きます。
売掛金を回収したとき
【例題2】
後日、B商店から売掛金10,000円が当座預金口座に振り込まれた。
【仕訳】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 当座預金 | 10,000 | 売掛金 | 10,000 |
左側(借方)の「当座預金」は、資産の増加です。
右側(貸方)の「売掛金」は、資産の減少を意味します。
お金を実際にもらったので、事前に持っていた「お金をもらう権利(売掛金)」を消去します。
これを「権利の消し込み」と呼びます。
商品を掛けで仕入れたとき(仕入側の視点)
次は、逆の立場である仕入側の動きを確認します。
【例題3】
B商店はA商店から商品10,000円を掛仕入れとした。
【仕訳】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕入 | 10,000 | 買掛金 | 10,000 |
左側(借方)の「仕入」は、費用の発生です。
右側(貸方)の「買掛金」は、負債の増加を意味します。
「後でお金を払う義務」を負ったため、負債の定位置である右側に記録します。
負債は、いわば「マイナスの資産」です。将来、現金が減る原因になります。
買掛金を支払ったとき
【例題4】
後日、A商店に対する買掛金10,000円を当座預金から支払った。
【仕訳】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 買掛金 | 10,000 | 当座預金 | 10,000 |
左側(借方)の「買掛金」は、負債の減少です。
右側(貸方)の「当座預金」は、資産の減少です。
お金を支払って義務を果たしたため、右側にあった買掛金を、左側に書いて消去します。
よくある間違い:「買掛金」と「未払金」の混同
初心者が試験で最も間違えやすいのが、「買掛金」と「未払金(みはらいきん)」の使い分けです。
どちらも「後でお金を払う義務(負債)」なので、一見すると同じように思えます。
たとえば、「パソコンを後払いで買ったから、買掛金で仕訳をしよう!」
これは、簿記の試験では不正解になってしまうことがあります。
使い分けの基準は、「取引の対象が、その会社の商品(本業)かどうか」にあります。
- 買掛金:販売目的で仕入れた「商品」に対する後払い義務
- 未払金:社内で使うパソコンや車など、「商品以外のもの」に対する後払い義務
例えば、家電量販店にとってその「パソコン」が販売するための商品であれば、買った時の後払いは「買掛金」です。
しかし、お店で使う例えば経理用の「パソコン」であれば、買った時の後払いは「未払金」になります。
問題文を読んだとき、それが「商品」なのか「それ以外」なのかを、必ず確認してください。
同じように、売上側の「売掛金」と「未収入金(みしゅうにゅうきん)」も、商品かどうかで区別します。
解決法:補助簿をイメージして「誰に対するものか」を意識する
売掛金と買掛金の仕訳で迷わなくなるための、解決法をお伝えします。
それは、「相手の顔(会社名)を思い浮かべること」です。
実際のビジネスでは、「売掛金が100万円ある」という大雑把な管理はしません。
「A社に50万円、B社に30万円、C社に20万円の権利がある」というように、相手ごとに管理します。
これを簿記の実務では、「得意先元帳(とくいさきもとちょう)」や「仕入先元帳」という補助的な帳簿を使って記録します。
実際の会社では、毎月100社以上と掛取引をしている企業も珍しくありません。
視覚的に整理すると、ケアレスミスが激減します。
仕訳問題で行き詰まったら、心の中で以下のように呟いてみてください。
- 売掛金を見たら:「〇〇さんから、後でお金をもらう約束だったな」
- 買掛金を見たら:「〇〇さんに、後でお金を払う約束だったな」
主語を「会社」や「人」に置き換えるだけで、権利なのか義務なのかが、一瞬でクリアになります。
FAQ
- Q掛けで売った商品が返品された場合は、どのように仕訳する?
- A
最初に行った仕訳をひっくり返す「逆仕訳(ぎゃくしわけ)」を行います。
販売時の仕訳と左右を逆にすることで、売上(収益)と売掛金(権利)の双方を、正しい金額に減らすことができます。
- Qもしも取引先の会社が倒産して、売掛金が回収できなくなったら?
- A
「貸倒れ(かしだおれ)」という手続きを行い、財産をあきらめる処理をします。
回収できないことが確定した時点で、持っていた売掛金を右側に書いて消去します。
それと同時に、左側には「貸倒損失(かしだおれそんしつ)」という費用の科目を計上します。
- Q売掛金があるということは、儲かっている?
- A
そうとは言い切れません。ここが簿記を学ぶ上で、とても面白いポイントです。
売掛金が多いということは、売上がたくさん立っている証拠なので、一見すると優秀です。
しかし、それらが期日通りに現金として回収できなければ、手元のお金が枯渇してしまいます。
黒字なのに現金がなくて倒産する「黒字倒産」は、このようなバランスの崩れから起こります。
売掛金(権利)と、実際の現金(資産)のバランスをセットで見ることが、企業の健康状態を見極めるコツです。
まとめ:売掛金と買掛金は「約束」を記録する勘定科目
売掛金と買掛金の本質は、ただの数字の記録ではありません。
会社と会社との信頼の証拠そのものです。
取引の背景にあるストーリーを想像しながら、楽しく勉強を続けていきましょう。
- 売掛金は「後でお金をもらう権利」で、資産のグループに属する
- 買掛金は「後でお金を払う義務」で、負債のグループに属する
- 商品以外の取引での後払いは「買掛金」ではなく「未払金」を使う
ここまで読んでいただきありがとうございます。
簿記につまずくのは、理解しようとしている証拠です。
少しずつ知識を積み重ねながら、つまずきを一つずつ解消していきましょう。
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