日商簿記3級を勉強中のみなさん、少し手を休めて「コーヒーブレイク」しませんか?
今回のテーマは、勉強を進める中で誰もが一度は抱く疑問、そして実社会でも非常に重要なトピックである「利益が出ているのに、なぜかお金がない会社の謎」についてです。
この記事を読めば、あなたが今学んでいる「B/S(貸借対照表)」や「P/L(損益計算書)」、そして「仕訳」の知識が、いかに現実のビジネスを読み解く強力な武器になるかが実感できるはずです。
利益が出ているのにお金がない
「損益計算書では黒字なのに、通帳の残高がスカスカ……」
「利益が出ているはずなのに、借金の返済に追われている」
これはドラマの中の話ではなく、現実の経営現場で多くの社長が直面する恐怖の現象です。
簿記の世界では、これを理解することを「損益と収支のズレ」と呼びます。
なぜ、こんな不思議なことが起こるのでしょうか?
その正体は、簿記3級で学ぶ「売掛金」「在庫」「借入金」「減価償却」という4つの要素に隠されています。
今回は、知識の定着を助ける補填記事として、プロの視点からこのミステリーを分かりやすく解き明かします。
簿記の鉄則:「売上=現金」ではない
まず、初心者が最初につまずくポイントを整理しましょう。
簿記において、売上を記録するタイミングは「代金を受け取ったとき」ではありません。
「商品を引き渡した時点」が売上
簿記のルールでは、商品の代金をもらっていなくても、相手に商品を引き渡した時点で「売上(収益)」が発生したと考えます。
これを「掛け取引」と呼びます。
- 売掛金(資産):商品を売って、後でお金をもらう権利。
つまり、P/L(損益計算書)の上では1,000万円の売上があって利益がドカンと出ていても、それがすべて「売掛金」のままであれば、会社に入ってきた現金は0円という状況が普通に起こり得るのです。
これが「利益はあるけどお金がない」正体の第1歩です。
なぜ「ズレ」が生まれる? お金が消える4つのルート
それでは、具体的になぜ利益と現金の動きがバラバラになってしまうのか。
簿記3級の知識を使って、お金が消えていく4つのルートを見ていきましょう。
売掛金の回収が遅れている(掛け取引)
先ほど説明した通り、売上が立っても現金が入るまでにはタイムラグがあります。
- 利益が出るタイミング:商品を売ったとき(今!)
- 現金が入るタイミング:売掛金を回収したとき(1ヶ月後、2ヶ月後……)
もし、売上のスピードに対して回収が遅すぎると、計算上の利益だけが積み上がり、手元のキャッシュが底をついて倒産してしまいます。
これが世に言う「黒字倒産」の典型パターンです。
在庫を大量に抱えている(繰越商品)
ここが非常に重要なポイントです。「商品を仕入れただけでは、費用(利益を減らす要因)にならない」というルールを覚えていますか?
- 仕入れた時:現金は出ていく。
- 売れた時:初めて「売上原価」という費用になり、利益を計算する対象になる。
つまり、100万円分の商品を現金で仕入れても、それが倉庫に眠っている(在庫=繰越商品)限り、利益は1円も減りません。
しかし、財布からは100万円が消えています。
「在庫が山ほどある会社」は、B/S上では資産家ですが、現金不足に陥りやすいのです。
借金を返済している(負債の減少)
銀行から借りたお金(借入金)を返すシーンを想像してください。
- 借金の返済仕訳: (借) 借 入 金 ×× / (貸) 現 金 ××
この仕訳を見てください。
どこにも「費用」が出てきません。
借金の返済は「負債が減る」だけであり、損益計算書の「利益」を計算するプロセスには一切関係がないのです。
したがって、「利益は出ているけれど、その利益と同じ額を借金の返済に回している」という会社は、手元に現金が全く残りません。
高価な設備投資をした(減価償却)
例えば、300万円の営業用車両を現金で買ったとします。
- 購入時:現金300万円がガバッと減る。
- 決算時:300万円を数年に分けて少しずつ「減価償却費(費用)」にする。
この場合、購入した年は「現金は300万円減ったのに、費用は(例えば)60万円しか計上されない」という逆のズレが起きます。
逆に2年目以降は、現金は1円も出ていかないのに、減価償却費という費用だけが計上され、利益を押し下げます。
具体例でシミュレーション!「利益100万円・現金マイナス」の怪
数字を使って、もっとリアルにイメージしてみましょう。
当期の活動
- 商品200万円を現金で仕入れた。
- その商品を300万円で販売し、代金は「掛け(売掛金)」とした。
- 銀行に借金を150万円、現金で返済した。
損益計算書(P/L)はどうなる?
- 売上:300万円
- 売上原価:200万円
- 利益:100万円(黒字!)
現金の動きはどうなる?
- 仕入の支払い:△200万円
- 売上の入金:0円(売掛金のため)
- 借金の返済:△150万円
- 現金の増減:△350万円(大赤字!)
いかがでしょうか?
利益は100万円の黒字なのに、現金は350万円も減ってしまいました。
もし元々の預金残高が350万円未満だったら、この会社は黒字なのに不渡りを出して倒産してしまいます。
これが、簿記の勉強をしているあなたにぜひ知ってほしい「数字の裏側」です。
初心者が絶対につまずく!「利益 = 現金」という罠
簿記3級を勉強していると、つい「利益=儲け=現金が増えた」と直感的に繋げてしまいがちです。
しかし、出典資料でも強調されている通り、「資本(利益の蓄積)の額といま所有している現金の額は別の概念」です。
なぜ混乱するのか?
それは、私たちが家計簿のような「現金の入りと出」だけを追う記録に慣れているからです。
- 家計簿:お金が入ったときがプラス。
- 簿記:権利(売掛金など)が発生したときがプラス。
この「発生主義」という考え方に脳を切り替えることが、3級合格、そして実務で使える知識を身につけるための最大のハードルと言えます。
理解を深めるポイント:B/SとP/Lを「セット」で見る
「利益があるのにお金がない」という状態を正しく把握するためには、損益計算書(P/L)だけを見ていてはダメです。必ず貸借対照表(B/S)をセットで見ましょう。
- P/Lで「利益の原因」を確認する
「本業(売上)で稼いだ利益か? それとも資産を売った一時的な利益か?」 - B/Sで「財産の形」を確認する
「利益(繰越利益剰余金)は増えているが、それは現金として持っているのか? それとも売掛金や在庫として眠っているのか?」
この2つの書類を繋ぐ接着剤が「当期純利益」です。P/Lで計算されたバトンが、B/Sの純資産グループ(繰越利益剰余金)に運ばれる一連の流れをイメージしてください。
FAQ(よくある質問:コーヒーブレイク版)
「キャッシュフロー計算書」って何ですか?
簿記3級の試験範囲ではありませんが、今回お話しした「利益と現金のズレ」を専門に報告する書類のことです(簿記1級や実務で登場します)。
3級の知識があれば、その仕組みはすぐに理解できます。
在庫は「資産」なら、たくさんあっても良いのでは?
理論上は資産ですが、在庫は「お金を支払って形を変えたもの」です。
売れない限り現金には戻りませんし、古くなれば価値が下がります。
経営の世界では「在庫は現金の死骸」と言われることもあるほど、管理が重要です。
この「ズレ」を知っていると、どんな得がありますか?
例えば就職や転職の際、求人票の「売上高」や「純利益」だけを見て安心せず、その会社がしっかり「現金」を回せているか(資金繰り)を推測する視点が持てます。
また、個人投資家としても、企業の本当の健全性を見抜けるようになります。
まとめ
簿記3級の勉強は、単なる暗記作業ではありません。
- 売掛金は「将来、現金が増える権利」
- 買掛金は「将来、現金が減る義務」
- 在庫(繰越商品)は「まだ費用になっていない現金」
- 借金の返済は「資産と負債が同時に減るだけ(利益は減らない)」
これらの仕訳の裏側にある「現金の動き」を意識するだけで、勉強の楽しさは倍増します。


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